永遠の故郷 義信ソニービル
義信ソニービルは、東京都中央区銀座5丁目3番1号の707m²の敷地に、大正7年7月7日誕生の日本人の芦原義信による設計で、昭和41年(1966年)の昭和天皇誕生日の4月29日に竣工。平成29年(2017年)4月1日から建て替え工事をして、次のソニービルが建つまで、今はソニー公園になっている。すぐに建て替えないで一旦公園化という発想は新しい発想でソニーらしく、この趣旨は、最初のソニービルである義信ソニービルを尊く懐かしく重んじていると思う。義信ソニービルの基本構造と言うか特徴は、花びら構造である。4枚の花びら、あるいは、段違いに重なる花びらのように、義信ソニービルは、田の字の4つの床の花びらが段違いに重なっていた。この床の部分を上がっていく時は少しずつ上がっていくから、義信ソニービルは8階建てだが、階というものを感じなく、まるで1本の坂道を上がっていく感じだった。この道のことを、盛田昭夫は縦形のプロムナードと呼んだ。福島県会津若松市にあるさざえ堂も、1本の坂道を上がっていく建物で、このような建物が大昔から日本にあったことに、芦原義信と盛田昭夫は義信ソニービル竣工後に知って驚いたという。一部分だけ段違いのスキップフロアのある建物はよくあるが、一番下から一番上まで繋がっているさざえ堂と、一番下から一番上まで繋がっているような義信ソニービルは、大変珍しい。僕は高校生の時に初めて義信ソニービルを見に行った時、この段違いはどこまで続くのかと思いながら、結局は一番上まで段違いになっていて珍しい建物だと思った記憶が甦った。義信ソニービルの段違いは外観にも出ていて、外観の一番の特徴になっていた。義信ソニービルの全体のもう一つの特徴は、大きくない建物だったのにただの箱形の建物ではなかったということである。この特徴を作っていたのは、敷地の角の斜めを活かした「三角形の小さな庭」と、この庭によりできた「エレベーターの部分の彫り」と、この彫りと他の部分より高いエレベーターの上部分によりできた「塔のような部分」である。エレベーターは奥にもあるが、このエレベーターの上部分も同様に他の部分より高く作ってあったから、塔が2つあるような建物だった。この2つの塔にSONY文字看板があった。この2つの塔は、大きさと形は似ていたが、向きは異なっていたから、左右対称ではなかったのが面白かったし表情豊かであった。三角形の庭の横のエレベーターの塔では、道路に面した外壁全面にトリニトロンを配置して画面で文字や模様を作って道行く人をも楽しませていた時もあった。塔の部分以外の外壁全面には縦形ブラインドのようなルーバーを設置してあった。僕は花びら構造のことも外壁のルーバーのことも知らなかったが、建て替え工事直前に開催のIt's a Sony展で知った。It's a Sony展では、改装した曲線の階段や硝子をたくさん用いた透明感のある内装を、昔の曲線ではなかった階段と硝子をたくさん用いていなくて透明感のなかった内装に戻し、昔の義信ソニービルに近い内装に戻してあったが、この趣旨は、昔の義信ソニービルを知っている人たちへの配慮だったと思う。義信ソニービル、いつ行っても新しかった、いつ行っても親近感があった、いつ行っても日本人らしさがあった。東京都中央区銀座5丁目3番1号には、永遠に新しいソニービルが建っていくだろう。しかし最初のソニービルの義信ソニービルを知っている僕のような人は幸いである、その人は永遠の故郷を見るだろう、永遠の故郷を聴くだろう、あの時のビデオウォークマンで、あの時のウォークマンで、最新のウォークマンで。ありがとう義信ソニービル、いつ行っても。
